同人サークル<アレ★Club>公式ブログ(通称:「アレ★Blog」)

ジャンル不定カルチャー誌『アレ』を作っている<アレ★Club>の日々の活動記録です。

ファストとスロー~マイルドヤンキーと都会民から見る地域経済~

★対談者紹介★
◆永井光暁
<アレ★Club>の事務局長。大阪の南部出身。

■堀江くらは(@kuraharu
<アレ★Club>のWeb担当。本職はライター/編集者な人。静岡は伊豆地方出身。東京都在住。

◆永井
この前、卒業してから初めて中学の同窓会が和民であったんですよ。それで、十数年ぶりに会う同級生が多かったんですが、皆ビックリするくらい丸くなってたんですよ。ウチの中学、デキはかなりアレな方だったんで、在学当時はパンチ効いてるヤツばっかだったのに、今じゃ小ザッパリした格好で子供連れて「地元で嫁や子供や仲間と生きていくの最高!」ってマジで言ってる。それを見て、なんか「あぁ、俺ってマイルドヤンキーに囲まれて生きてきたんだなぁ」って思ったんですよね。
 

■くらは
僕も最近、FBで中学時代の同級生から友達申請がきて、チョット驚きました。何に驚いたかって、昔はヤンチャしていた人に子供ができて、やっぱり「地元愛」や「家族愛」みたいなことを叫んでいたことです。昔はそんなこと一言も言わなかったのに……って(笑)
 

◆永井
それ、ほぼ同じ経験をしました(笑)簡単に言えば、『ヤンキー経済』って本に出てくるマイルドヤンキーそのものなんですよね。でも、実際に話してみたら分かるんですが、彼ら彼女らはメチャクチャ真っ当に生きている。ちゃんと仕事して、この少子化の中キチンと子供を産んで育てて……安倍内閣が言っている「一億総活躍社会」の実現に一番貢献しているのって、実はマイルドヤンキーなのかもしれません。

■くらは
というか、マイルドヤンキーという言葉自体がなんとなく都市が地方を見下している気がするんですよね。マイルドヤンキーのWikiにある上昇志向がない・低学歴低収入・イオンが聖地みたいな部分は、地方とそこに住む人を馬鹿にしているようにしか見えない。
別にいいじゃないですか。低学歴でも、低収入でも、「人間関係」っていう自分の居場所を見つけて頑張ってる。ただの都市による価値観の押し付けですよね。
 

◆永井
それは分かります。多分ですけど、マイルドヤンキーをバカにする人たちは、大体が高学歴・高収入、あるいはそうでなくても上昇志向な人だと思うんですけど、それって言い換えれば、文化資本で田舎者を殴っている、とも言える気がします。
まぁ、しっかりと根を張って地元で暮らしている地方の人と、見栄張ってヒィヒィ言いながら生きている地方出身の都会に住んでいる人、はたしてどっちの方がいわゆる「田舎者」なのかはアヤシイところですけどね……。
 

■くらは
確かにそうですね(笑)「東京は田舎者の集まり」って言いますし。でも実際問題、マイルドヤンキーは子供を産んで少子化対策に貢献しているし、地域経済にも貢献してる。低学歴・低収入ってだけで見下すのはどうかと思いますね。
 

◆永井
一理あると思います。まぁ、そもそも「ヤンキー」という言葉自体が蔑称と言えば蔑称ですけどね。
ところで、よく「マイルドヤンキーってどんな仕事してるんだ?」って疑問を耳にしますが、おそらく現在は土建業や物流業、あるいは町工場とかが中心じゃないですかね。
農業や小売業が苦しくなっていく中で、土建業や物流業の人たちの中にもマイルドヤンキーが増えていったんだと思います。あの業界の人たちはアチコチに行くけど、拠点はしっかりとしているので、別に単身赴任みたいな形で出稼ぎに行く必要はない。でも稼ぎはちゃんとあるから、それを元手に地元で車を買ったり、家を建てたりする。その結果、ちゃんと地元に根付くワケです。

 
■くらは
今後彼ら彼女らは介護の担い手にもなっていくのでしょうね。あと、マイルドヤンキーって言葉の中に、「都会の中の地方民」も含まれていることを忘れちゃダメですよね。彼ら彼女らは上記の職業だけでなく、企業に勤めて営業や事務職に就いている。東京だけでなく、地方都市に住んでいる人はそうです。
 

◆永井
ってか、そもそもなんでこのワードが注目されるようになったんですかね?
 

■くらは
これは僕の推測ですが、以前からマイルドヤンキー的な人はいたが注目されなかっただけなんだと思います。それが経済界で注目されるくらい大きくなった。
昔は東京を目指す若者がいて、一部の若者だけが地元に残っていたのではないでしょうか。その時代に東京へ出た人たちは、東京という場所に夢を見ていましたし、何より東京にしか手に入らないものがたくさんあった。
でも、現代ではそんなことはない。東京に関する情報はインターネットを通して手に入るし、物だってアマゾンで買える。地元に進出してきたコンビニやイオン、ユニクロなどのおかげで、都市でしかできなかった経験が地方でもある程度できるようにもなった。その結果、都会を目指す人が少なくなって、地元に留まる人が増えたではないでしょうか。そこに経済界が注目してそういう人たちを「マイルドヤンキー」という言葉で紹介し、都会の人間がある種好奇の目で彼ら彼女らを見た結果、この言葉が注目されたのだと思います。
 

◆永井
なるほど。もしかすると、マイルドヤンキーに関する言説は、ゼロ年代の初めに登場した「ファスト風土」みたいな概念と地続きにあるのかもしれませんね。要するに、日本中が郊外化して、何処にでもイオンができたから、わざわざ都会に出て買い物をする必要がなくなった。で、都会に出ないマイルドヤンキーは、ファスト風土化の恩恵をモロに受けている、と。
 

■くらは
その通りだと思います。地方に住んでいる人は、イオンやユニクロ。僕の出身地の静岡なら109もありますが、そういう場所で東京を疑似体験しているのではないでしょうか。
一方で都会はロハスやエコなど、スローライフ的なものを求めて地方に進出していますよね。都会と地方、どちらに住む人も自分の住む場所とは異なる価値観を求めて遊びに出かけますが、その根底にあるのは日本中が郊外化しているってことなのかもしれません。
 

◆永井
そこが面白いですよね。実際にショッピングモールなどは現在日本のアチコチにあるけど、都会の人と地方の人でそこに行く意味合いは異なっていると思います。
それで思い出したのですが、商業施設の店舗にテナントを誘致して出店することを「テナントリーシング」と言うのですが、立地や地域によってこのテナントリーシングが大きく影響しているのではないかなと最近考えています。たとえば、都会のショッピングモールだと地方の名店などを多めに入れていますが、地方のショッピングモールは東京にある有名なお店を入れて「●●県初出店!」みたいな感じでウリにしています。なので、ハコは同じ、つまり何処にあってもイオンはイオンだけど、その中身は立地によって異なってくる、というワケです。
 

■くらは
地方には東京の、東京には地方のアンテナショップがイオン内に存在しているということですね。
最近、東京では地方のものを集めた百貨店がすごく増えてる。一方で地元の百貨店は、東京の有名ブランドを集めている。言うならば、地方は東京を、東京は地方を求めながら一切外には出る必要はない、って状況ができあがってるわけですね。
 

◆永井
ですね。ってか、そう考えると、外に出ないのはマイルドヤンキーに限った話ではなく、今の日本はどこもかしこも外に出る必要が減っているのかもしれませんね。少なくとも、モノに関しては都会と地方の差は埋まりつつある。ただ、イベントとかについてはまだまだ都会と地方で差があると思います。全国規模のイベントは大体が都会で行なわれますしね。とはいえ、文学フリマの百都市構想みたいに、一つのイベントを複数の地域で展開していくというやり方もありますから、イベントのありようも今後変わってくるかもしれませんね。
 

■堀江
正直、「マイルドヤンキーを馬鹿にするな!」 って話からここまで面白い話ができると思っていませんでした(笑)
こうやってみると、「一億総マイルドヤンキー化」みたいなことが始まっているのかもしれませんね。
 

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代表の山下泰春「いわゆる知識人にもヤンキーみたいなヤツ多いけどな!!」

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一億総マイルドヤンキー化は楽園か?~地方民と都会民から考える日本経済~

★対談者紹介★
●市川遊佐(@ichikawa_yusa
<アレ★Club>の副代表。各地を転々として育った現東京都民。心の故郷は札幌。

◆永井光暁
<アレ★Club>の事務局長。生まれも育ちも大阪の南部。

 

●市川
昨日のブログ記事、読んだよ。要約するとマイルドヤンキーは目の前にある手に届く範囲のモノを使って最善を尽くしている。しかも最近はイオンやコンビニやユニクロが地方に進出してきた(ファスト風土化)し、Amazonで全国どこでもなんでも買える。だから最近は東京に出る意義が弱くなりつつある。将来は一億総マイルドヤンキー化が起こるかもしれないって話だったね。

 

areclub.hatenablog.com

 

◆永井
そうだね、マイルドヤンキーのことをバカにしたような論調が目立ちやすいネット言論界隈に「それは違うんじゃないか」という視点を投げかけてみたかったんだよね。

 

●市川
主流になっている論調に反論をぶつけるのは意義があると思う。永井さんが好きな弁証法ってわけだ(笑)それに僕自身、永井さんとくらはさんがそういうこと考えてたんだなあって分かって面白かった。でも、僕はアレに異議がある。僕はマイルドヤンキーが「真っ当に生きてる」という話について「待った」をかけたい。さあ、弁証法といこうじゃないか(笑)

 

◆永井
いいよ。じゃあ、マイルドヤンキーが「真っ当」に生きてないとなぜ思ったんだい?

 

●市川
それは、マイルドヤンキーが従事している仕事の多くは中央や大企業とのつながりから湧いてきたものだからさ。昨日の記事ではマイルドヤンキーが従事している仕事の具体例として、土建業や町工場が挙げられていた。これらは霞が関や大手ゼネコンや大手製造メーカーとのつながりがあっての仕事だ。
誤解を招かないように急いで付け加えておくと、僕は「中央や大企業が偉くて、下請け企業はそこから仕事を貰っているだけだ」と言いたいわけではない中央や大企業は下請け企業がないと存続できないし、下請け企業からひどい搾取をしている場合も多いだろう。やっている仕事の内容も違うから単純にどっちの方が能力が高いとかも言えない。
でも、海外とつながっているのは中央や大企業なわけで、彼らが政治的決断をしたり外貨を稼いだりしているから、地方も現状の維持ができているという側面はあるわけだ。

 

◆永井
ああ、つまりマイルドヤンキーは用意された地方という舞台の上で「真っ当」に生きているわけで、その舞台があるのは中央や大企業のおかげだ、って話?

 

●市川
そこまで恩着せがましくはなれないと思うけどね。要は持ちつ持たれつでしょ。中央や大企業だって地方がなければ存続できないのは前に書いた通りなんだから。
ただ、僕はそこで生きているマイルドヤンキーだろうが中央や大企業の人間だろうが、「用意された舞台」に無自覚な人間のことを「真っ当」に生きているって肯定する気にはなれない。それって高度経済成長期に無邪気に「俺は頑張ってるんだ!これは俺たちの勤勉さの証なんだ!」って自己肯定していた頃の日本人と同じじゃない?高度経済成長期が終わってプラザ合意があって冷戦が終わってバブルがはじけて……日本が勝てる追い風が終わって、今の日本は御覧の有様なわけじゃん?まだ先進国と言えるくらいの水準を維持してるとは思いたいけどさ。

 

◆永井
確かに。でもじゃあ、市川君の尺度で言えばどんな生き方が「真っ当」なの?皆用意された舞台で踊るしかないんじゃない?新しい舞台を何もないところから作れるわけじゃないでしょう。

 

●市川
用意された舞台で努力するしかないっていうのはそう。でも用意された舞台に自覚的になって、なるべく自分が立つ舞台がより良くなるように一工夫打つくらいはできると思う。いきなり舞台の大改装!革命だ!ってのは多分うまくいかないけど、今ある舞台にプラス・アルファするくらいならできるんじゃない?

 

◆永井
なるほどね。その話だけど、工夫が上手くいっているケースで言えば、たとえば熊本県の八代地域の名物である塩トマトなんかが挙げれると思う。アレなんかは、通常作物が育ちにくい塩分濃度が高い干拓地という悪条件を活かして、優れたモノを作った好例だと思う。
話を戻すと、つまりマイルドヤンキーも中央や大企業の人も、互いに持ちつ持たれつで仕事をしている。でも、その仕事ができる現状はアタリマエではない。これから状況は良くなるかもしれないし、悪くなるかもしれない。そのことを直視して、状況を良くするためにちょっと一工夫を打つのが『真っ当』な生き方だってことかな?

 

●市川
そう、そういうことです。そして、持ちつ持たれつなんだからマイルドヤンキー的な人も必要だし、中央や大企業の人みたいな人も必要。地方でたくさん子供を生み育てて家族を大切にする人も大事だし、中央や大企業で海外相手にシノギを削る日々を送る人も大事。だから一億人全員がマイルドヤンキーになるってのは、一見したところ楽園っぽく見えるけど成立しない、と僕は思う。

 

◆永井
ああ、それはそうかもしれない。全員マイルドヤンキーでも全員中央や大企業の人でも、この国はすぐにダメになるね。どっちかの生き方がより良いとかいうことはなくて、本当は両方必要だってことか。個人的にはまあ、それでも九割方マイルドヤンキーで良いような気がするけれども……。
ところで、日本が追い風を失って凋落しつつあるという話だけど、日本のインフラの整備レベルはまだ世界トップレベルだとは思わない?これは舞台の工夫とは違うわけ?

 

●市川
ちょっと違うかな。だって、日本のインフラ整備は基本的には「ゴールが決まっている課題を完璧にやり遂せる」っていう、高度経済成長期の思想の延長線上にあるわけだから。ゲームのルール変更に匹敵するような、舞台の大変革にはやっぱり弱い。まだ日本社会のICT競争力は低い状態のままだし、公衆Wi-Fiだって今の普及率だいぶ低くない?この社会の前提がガラッと変わる可能性に対する無防備さは、ちょっと僕の尺度からすると「真っ当」とはかけ離れたものだと言わざるを得ない。

 

action-now.jp

 

 

工夫を凝らすっていう意味では日本の(先端的でない範囲で)至れり尽くせりなインフラにも悪い点はあるんじゃないかな。アメリカの片田舎にしばらく住んでたことがあったんだけど、インフラの整備レベルが低かったりするからか皆「工夫して毎日を乗り越えよう」っていう気風が根付いていたように思う。何をするにも互いに声をかけ合って合意を取って物事を進めるんだ。バスに乗ったらよく運転手さんに「このバスは○○まで行きますか」って聞いたもんだよ。最初は「詳細を知らないのは自分だけで、質問をしてるのも自分だけなんじゃないか」って思って恥ずかしさを感じたけど、皆聞くもんだからすぐに恥ずかしくなくなった(笑)もちろんアメリカは州によって別の国かってくらい環境が違うから一概に「アメリカはこうだ!」って言う気はないけど。

 

◆永井
で、市川君はアメリカに帰りたいのかい?(笑)

 

●市川
絶対イヤだ(笑)グダグダ日本の現状をdisったりもしたけれど、やっぱ日本のいたれりつくせりなインフラの中で暮らしたい。質の高い公共事業を提供してくれる中央・大手ゼネコン・下請け企業の皆さん・職人の皆さんには足を向けて寝られませんね。この便利な日本をこれからも維持・発展できるよう、日々の仕事と工夫に精進して参る所存であります。
具体的にはマイルドヤンキー的な生き方と中央や大企業の人みたいな生き方の両方が、もっと今よりエンパワーしあえるような社会を目指していきたいと思っています。でもその話はまた今度。

 

◆永井
市川君も結局は日本人だったってことで(笑)

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代表の山下泰春「まあ、私たちが真っ当な生き方をしてるかはまた別の話ですけどね!」

 

増補新版 愛の新世界

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