同人サークル<アレ★Club>公式ブログ(通称:「アレ★Blog」)

ジャンル不定カルチャー誌『アレ』を作っている<アレ★Club>の日々の活動記録です。

一億総マイルドヤンキー化は楽園か?~地方民と都会民から考える日本経済~

★対談者紹介★
●市川遊佐(@ichikawa_yusa
<アレ★Club>の副代表。各地を転々として育った現東京都民。心の故郷は札幌。

◆永井光暁
<アレ★Club>の事務局長。生まれも育ちも大阪の南部。

 

●市川
昨日のブログ記事、読んだよ。要約するとマイルドヤンキーは目の前にある手に届く範囲のモノを使って最善を尽くしている。しかも最近はイオンやコンビニやユニクロが地方に進出してきた(ファスト風土化)し、Amazonで全国どこでもなんでも買える。だから最近は東京に出る意義が弱くなりつつある。将来は一億総マイルドヤンキー化が起こるかもしれないって話だったね。

 

areclub.hatenablog.com

 

◆永井
そうだね、マイルドヤンキーのことをバカにしたような論調が目立ちやすいネット言論界隈に「それは違うんじゃないか」という視点を投げかけてみたかったんだよね。

 

●市川
主流になっている論調に反論をぶつけるのは意義があると思う。永井さんが好きな弁証法ってわけだ(笑)それに僕自身、永井さんとくらはさんがそういうこと考えてたんだなあって分かって面白かった。でも、僕はアレに異議がある。僕はマイルドヤンキーが「真っ当に生きてる」という話について「待った」をかけたい。さあ、弁証法といこうじゃないか(笑)

 

◆永井
いいよ。じゃあ、マイルドヤンキーが「真っ当」に生きてないとなぜ思ったんだい?

 

●市川
それは、マイルドヤンキーが従事している仕事の多くは中央や大企業とのつながりから湧いてきたものだからさ。昨日の記事ではマイルドヤンキーが従事している仕事の具体例として、土建業や町工場が挙げられていた。これらは霞が関や大手ゼネコンや大手製造メーカーとのつながりがあっての仕事だ。
誤解を招かないように急いで付け加えておくと、僕は「中央や大企業が偉くて、下請け企業はそこから仕事を貰っているだけだ」と言いたいわけではない中央や大企業は下請け企業がないと存続できないし、下請け企業からひどい搾取をしている場合も多いだろう。やっている仕事の内容も違うから単純にどっちの方が能力が高いとかも言えない。
でも、海外とつながっているのは中央や大企業なわけで、彼らが政治的決断をしたり外貨を稼いだりしているから、地方も現状の維持ができているという側面はあるわけだ。

 

◆永井
ああ、つまりマイルドヤンキーは用意された地方という舞台の上で「真っ当」に生きているわけで、その舞台があるのは中央や大企業のおかげだ、って話?

 

●市川
そこまで恩着せがましくはなれないと思うけどね。要は持ちつ持たれつでしょ。中央や大企業だって地方がなければ存続できないのは前に書いた通りなんだから。
ただ、僕はそこで生きているマイルドヤンキーだろうが中央や大企業の人間だろうが、「用意された舞台」に無自覚な人間のことを「真っ当」に生きているって肯定する気にはなれない。それって高度経済成長期に無邪気に「俺は頑張ってるんだ!これは俺たちの勤勉さの証なんだ!」って自己肯定していた頃の日本人と同じじゃない?高度経済成長期が終わってプラザ合意があって冷戦が終わってバブルがはじけて……日本が勝てる追い風が終わって、今の日本は御覧の有様なわけじゃん?まだ先進国と言えるくらいの水準を維持してるとは思いたいけどさ。

 

◆永井
確かに。でもじゃあ、市川君の尺度で言えばどんな生き方が「真っ当」なの?皆用意された舞台で踊るしかないんじゃない?新しい舞台を何もないところから作れるわけじゃないでしょう。

 

●市川
用意された舞台で努力するしかないっていうのはそう。でも用意された舞台に自覚的になって、なるべく自分が立つ舞台がより良くなるように一工夫打つくらいはできると思う。いきなり舞台の大改装!革命だ!ってのは多分うまくいかないけど、今ある舞台にプラス・アルファするくらいならできるんじゃない?

 

◆永井
なるほどね。その話だけど、工夫が上手くいっているケースで言えば、たとえば熊本県の八代地域の名物である塩トマトなんかが挙げれると思う。アレなんかは、通常作物が育ちにくい塩分濃度が高い干拓地という悪条件を活かして、優れたモノを作った好例だと思う。
話を戻すと、つまりマイルドヤンキーも中央や大企業の人も、互いに持ちつ持たれつで仕事をしている。でも、その仕事ができる現状はアタリマエではない。これから状況は良くなるかもしれないし、悪くなるかもしれない。そのことを直視して、状況を良くするためにちょっと一工夫を打つのが『真っ当』な生き方だってことかな?

 

●市川
そう、そういうことです。そして、持ちつ持たれつなんだからマイルドヤンキー的な人も必要だし、中央や大企業の人みたいな人も必要。地方でたくさん子供を生み育てて家族を大切にする人も大事だし、中央や大企業で海外相手にシノギを削る日々を送る人も大事。だから一億人全員がマイルドヤンキーになるってのは、一見したところ楽園っぽく見えるけど成立しない、と僕は思う。

 

◆永井
ああ、それはそうかもしれない。全員マイルドヤンキーでも全員中央や大企業の人でも、この国はすぐにダメになるね。どっちかの生き方がより良いとかいうことはなくて、本当は両方必要だってことか。個人的にはまあ、それでも九割方マイルドヤンキーで良いような気がするけれども……。
ところで、日本が追い風を失って凋落しつつあるという話だけど、日本のインフラの整備レベルはまだ世界トップレベルだとは思わない?これは舞台の工夫とは違うわけ?

 

●市川
ちょっと違うかな。だって、日本のインフラ整備は基本的には「ゴールが決まっている課題を完璧にやり遂せる」っていう、高度経済成長期の思想の延長線上にあるわけだから。ゲームのルール変更に匹敵するような、舞台の大変革にはやっぱり弱い。まだ日本社会のICT競争力は低い状態のままだし、公衆Wi-Fiだって今の普及率だいぶ低くない?この社会の前提がガラッと変わる可能性に対する無防備さは、ちょっと僕の尺度からすると「真っ当」とはかけ離れたものだと言わざるを得ない。

 

action-now.jp

 

 

工夫を凝らすっていう意味では日本の(先端的でない範囲で)至れり尽くせりなインフラにも悪い点はあるんじゃないかな。アメリカの片田舎にしばらく住んでたことがあったんだけど、インフラの整備レベルが低かったりするからか皆「工夫して毎日を乗り越えよう」っていう気風が根付いていたように思う。何をするにも互いに声をかけ合って合意を取って物事を進めるんだ。バスに乗ったらよく運転手さんに「このバスは○○まで行きますか」って聞いたもんだよ。最初は「詳細を知らないのは自分だけで、質問をしてるのも自分だけなんじゃないか」って思って恥ずかしさを感じたけど、皆聞くもんだからすぐに恥ずかしくなくなった(笑)もちろんアメリカは州によって別の国かってくらい環境が違うから一概に「アメリカはこうだ!」って言う気はないけど。

 

◆永井
で、市川君はアメリカに帰りたいのかい?(笑)

 

●市川
絶対イヤだ(笑)グダグダ日本の現状をdisったりもしたけれど、やっぱ日本のいたれりつくせりなインフラの中で暮らしたい。質の高い公共事業を提供してくれる中央・大手ゼネコン・下請け企業の皆さん・職人の皆さんには足を向けて寝られませんね。この便利な日本をこれからも維持・発展できるよう、日々の仕事と工夫に精進して参る所存であります。
具体的にはマイルドヤンキー的な生き方と中央や大企業の人みたいな生き方の両方が、もっと今よりエンパワーしあえるような社会を目指していきたいと思っています。でもその話はまた今度。

 

◆永井
市川君も結局は日本人だったってことで(笑)

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代表の山下泰春「まあ、私たちが真っ当な生き方をしてるかはまた別の話ですけどね!」

 

増補新版 愛の新世界

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