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ファッションから見る『スプラトゥーン』

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(画像はhttps://www.nintendo.co.jp/titles/20010000014127より。オシャレをし、ナワバリバトルに明け暮れるイカたち)

こんばんは、<アレ★Club>代表の山下泰春です。私は普段『Splatoon(以下:スプラトゥーン)』をプレイしており、先日、愛用のダイナモローラーでやっとS+に到達しました。さて、今回は『スプラトゥーン』におけるファッションの役割について考えてみました。ファッションから見る『スプラトゥーン』というゲームの本質とは……?

 
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『スプラトゥーン』の中で、プレイヤーたちを魅了してやまないもの。それが「ギア」だ。ギアとは、インクリング(以下、イカ)たちが身に付ける「アタマ」・「フク」・「クツ」のいずれにも付いている能力値のようなもので、このギアの組み合わせを、多くのプレイヤーたちは戦略的に考えている。プレイヤーの中には、ギアの厳選のためにゲーム内で手に入れたお金をダウニー(お金を積めばギアの付け替えをしてくれるキャラクター)に溶かす人も少なくない。

 
しかし、忘れてはならないのは、ギアはいずれもファッションであるということだ。どんなプレイヤーであれ、カッコイイ、カワイイと思うファッションはある。事実、『スプラトゥーン』の開発者は次のようなコメントをしている。

 

「開発者に20歳台後半から30歳台の、思春期に1990年代のムーブメントの影響を強く受けて育った人が多いので、その時代のものがモチーフに選ばれていることが多く、自分たちが心底カッコいいと思えるものを作っています」(『スプラトゥーンぴあ』P.24)

 
こうした開発者たちの美的センスに支えられて、イカたちはさまざまなファッションを身に付け、「イカした」存在になろうとバトルに明け暮れているのだ。公式では、こうしたイカたちの種族としての性質を「おおむね反抗的で、あえて反社会的な行動をとり、存在をアピールしたがる」ものと書いてある(注1)。何かを企んでいるような笑みを浮かべるイカたちの表情は、実はこのような性質からくるものなのだ。

 
ところで、最近亡くなった吉本隆明(1924-2012)という思想家は、雑誌『an・an』において、ファッションとは「さり気ない不服従のしるし」だと説いた(注2)。彼によると、権力にとって「多様で安くて恰好いいファッション」とは、いわば「秩序を乱す象徴」である。イカたちは自由にインクを撒き散らし、ステージを文字通り無秩序に塗りまくる。ファッションを着こなすことと、イカたちが存分に暴れまわることは、実に親和性が高いように見える。

 
しかし、筆者が注目しておきたいことは、イカたちには「芯がない」ということである(注3)。彼ら/彼女らのこうした反抗的な態度も、一貫しているものではない。彼らは打たれ弱い。だからこそ、イカたちはチームを組むのだと筆者は考える。

 

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(別冊コロコロコミックSpecial12月号より、通称「ライダーくん」)

 
例えば、ひのでや参吉の『Splatoon(スプラトゥーン)』(『別冊コロコロコミックSpecial』収録)という漫画に登場する、通称「ライダーくん」という名のイカがいる。彼は、味方を「足を引っ張る存在」と、さんざんコケにした後、上記のセリフを吐いたことで、ネットで一躍有名になった。しかし、いざ主人公チームにバトルで負けることになると、一転して今度は味方を責め始める。このように、自分の強さを誇示する割には、勝てなかった時に自分の弱さではなく味方を非難するという、一貫されていない態度が目につく。

 
まとめよう。イカたちは、ファッションを着こなすことで、自らを「イカした存在である」とアピールする。しかし、「イカに」自分一人が強くても、一人でバトルに勝つことはほぼ不可能である。だからこそ、味方と連携し、自分の弱さを補ってもらう必要がある(注4)。つまり、イカたちにとってファッションとは、目立つための手段であると同時に、弱さを隠すための隠れ蓑にもなっているのではないだろうか。

 
【注釈】

(注1)
『スプラトゥーン―イカすアートブック』P.44

(注2)
吉本隆明『重層的な非決定へ』P.259

(注3)
『スプラトゥーン―イカすアートブック』P.44

(注4)
『スプラトゥーン』開発者の一人である佐藤慎太郎氏は、「『ブキ』に一長一短の性能を持たせられるように全体のバランスをとるような調整を10か月かけてやっていました」と述べている(https://www.nintendo.co.jp/wiiu/interview/agmj/vol1/index.html)。どのブキにも必ず得意なことと苦手なことが存在する。例えば、遠距離射撃が得意なブキは塗り能力が低い、等。

 
【参考文献】

・週刊ファミ通編集部,2015,『スプラトゥーン―イカすアートブック』KADOKAWA/エンターブレイン.

・仁志睦/サデスパー堀野/畠山欣文/他,2016,『スプラトゥーンぴあ』ぴあ.

・吉本隆明,[1984]1985,「ファッション」『重層的な非決定へ』大和書房,257-64.

 

amiibo ガール(スプラトゥーンシリーズ)

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ハイ・イメージ論〈1〉 (ちくま学芸文庫)

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重層的な非決定へ

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