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同人サークル<アレ★Club>公式ブログ(通称:「アレ★Blog」)

ジャンル不定カルチャー誌『アレ』を作っている<アレ★Club>の日々の活動記録です。

今日から始める文学入門~文学って何が面白いの?~

対談 山下泰春 市川遊佐

★対談者紹介★
●市川遊佐(@ichikawa_yusa
<アレ★Club>の副代表。あまり文学青年ではない。

▲山下泰春(@yasuharu_are
<アレ★Club>の代表。かなり文学青年。好きな作家はカフカ。

 

●市川
僕、文学作品をどうすれば楽しめるのかよく分からないんだよね。文学もいろいろ読んでみたけれど、「面白い!」と思える作品にはたまにしか出会えない。

あと、文学が好きな人からは「あれを読め」だの「これを読め」って言われるけれど、読んでいるうちに退屈になってしまうことが多いんだよ。じっくり読むと映画とか漫画に比べて展開が遅くて辛くなる。かといって素早く読むようにすると、今度は大事な情報を読み落として混乱しちゃって、結局前の方に戻って読み直さないといけなくなる。要するに、文学作品を読むって面倒くさいんだよ。

それに、話を理解するだけなら、名作は大体映画化されてたりするわけだし、それを見ればいいじゃん。漫画には漫画の、映画には映画の工夫もあるわけだから、文章にはない良さもあるだろうしね。だからいつも思うんだよ、「どうしても文章で読まなきゃダメ?」って。

山下君は文学作品読むの結構好きみたいだけど、この辺のことについてどう思う?

 

▲山下
比喩は漫画や映画で表現するのは難しいでしょう。たとえばですが、「リンゴのように赤いほっぺた」って、漫画とか映画で表現できますか?

 

●市川
厳しいだろうね。漫画の場合、文字に頼るしかなさそう。セリフとか吹き出しとかに「あのほっぺ、リンゴみたいだな」って文字で書くとかしないといけないから、実際にやると滑稽になる。映画の場合だとさらに難しそう。せいぜい同じシーンに雪見だいふくみたいな何かを置いて「ほっぺた」を連想させるくらいしかできないよね。

 

▲山下
ね、すごく苦しいでしょ?でも、文学なら簡単です。たとえばボードレールの詩集『悪の華』には、「そなたの眼差しはモヤに包まれているようだ」とか、「太陽の愛撫するかぐわしい南の国」って感じの表現があります。これでもかとイメージで世界をきらびやかに飾れるわけですね。

 

●市川
なるほど。「〜のような」や「〜みたいな」っていう、比喩を使ったイメージの自由なつながりが、文学作品ならではの楽しみってことだね。

でも、それだけだと詩を読む気は出るけど、小説を読む気はまだ起きないかなあ。だって、今パラパラと芥川龍之介の短篇集めくってみたけど、あんまり比喩って使われてないよ。何か他に、小説ならではの楽しみってないの?

 

▲山下
「綺麗な日本語」に触れられることだと思います。とてもいい例があるので、紹介しますね。

 

山路を登りながら、こう考えた。

智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。

住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。

 

これは夏目漱石の『草枕』の冒頭の一節ですが、読んでいて気持ちいいですよね。思わず口に出して読みたくなる。実際、NHK教育の『にほんごであそぼ』でも朗読されてますね。

続いて同じく『草枕』から、山に咲いた椿の花が落ちる様子を描いた一節を紹介します。

 

地の上へ落ちたのか、水の上へ落ちたのか、区別がつかぬくらい静かに浮く。また落ちる。あれが沈む事があるだろうかと思う。年々落ち尽す幾万輪の椿は、水につかって、色が溶け出して、腐って泥になって、ようやく底に沈むのかしらん。幾千年の後にはこの古池が、人の知らぬ間に、落ちた椿のために、埋もれて、元の平地に戻るかも知れぬ。また一つ大きいのが血を塗った、人魂のように落ちる。また落ちる。ぽたりぽたりと落ちる。際限なく落ちる。

 

ここで椿の花は、「腐って泥になって」や「血を塗った、人魂のように落ちる」といった言葉で、死体のイメージと結びつけられています。でも、その椿の花=死体のイメージは、山の景色と重ねられることで、「幾千年」という時間のほんの一瞬の小さな出来事として描かれています。

漱石って、こんなゾッとするような美しい文章を書くんです。『吾輩は猫である』とかのイメージを持っている人からすると、ちょっと意外かもしれません。

 

草枕 (新潮文庫)

草枕 (新潮文庫)

 

 

最後に、谷崎潤一郎の『吉野葛』を引用します。

 

円錐形の、尻の尖とがった大きな柿であるが、真っ赤に熟し切って半透明になった果実は、あたかもゴムの袋のごとく膨らんでぶくぶくしながら、日に透かすと琅玕の珠のように美しい。(……)外の柿だと、中味が水のように融とけてしまって、美濃柿のごとくねっとりとしたものにならない。これを食うには半熟の卵を食うようにへたを抜き取って、その穴から匙ですくう法もあるが、やはり手はよごれても、器に受けて、皮を剥いでたべる方が美味である。しかし眺めても美しく、たべてもおいしいのは、ちょうど十日目頃のわずかな期間で、それ以上日が立てばずくしもついに水になってしまうと云う。

 

これは主人公に、老人が「ずくし(=熟した柿)」を差し出すシーンなのですが、柿の描かれ方に美しさすら感じます。「真っ赤に熟した半透明な柿が、ゴムの袋のように膨らんでぶくぶくしている」という箇所からは、ゴムという言葉のおかげで、手に持った感触が伝わってくる。しかも、味の方も他の柿と違って水っぽくなく、「ねっとり」した味だと書いている。こっちからはどんな味かイメージできます。こうして、一個のとても美味しそうな柿のイメージが、私たちに伝わってくる。今すぐにでもこの美濃柿が食べたくなってきませんか?

 

吉野葛・蘆刈 (岩波文庫 緑 55-3)

吉野葛・蘆刈 (岩波文庫 緑 55-3)

 

 

●市川
なるほど。こうして実際に名文を読むと、美しいし、楽しいね。それは分かる。で、分かるからこそ、何で僕が今までそういう文章になかなか出会えてこなかったのかが不思議だなあ。

 

▲山下
個人的な意見ですが、学校の現代文って、あんまり良い文章を紹介できていないと思いますし。ちまたの文学賞とかも、あんまり良いチョイスをしてるとは思えない。それで、あまり文章を読む経験がないまま、長編とかに挑戦して疲れちゃったのかも。長編小説を読むのには結構体力がいりますし、だからこそ「慣れ」が必要です。

 

●市川
あー、確かに小学生の頃に夏目漱石の『坊ちゃん』とかミヒャエル・エンデの『モモ』とかの割と長めの小説を読まされてうんざりした記憶はある。両方とも小学生の時に読書感想文コンクール用に読まされた本なんだけど、あのチョイスは大人になって少しだけ面白い小説を知った今から考えても、最近の日本の子供向けじゃないよなと思う。

 

▲山下
せっかくの文学に触れる機会なのに、すごくもったいないですよね。

文学はそれ自体で楽しいものですが、文学が楽しめるようになると想像力も身について、もっと楽しくなるんですよ。漫画とか映画だと、舞台設定って最初から視覚的に分かるじゃないですか。宇宙ステーションとか架空の都市とかみたいな。でも、文学だと、それらを自分で想像する必要がある。これ、ハマるとクセになります。

あと、文学を楽しめるようになると表現の幅も広がります。これも、身につくと具体的に人に指示する時に細かい注文が出せたりして便利ですよ。

せっかく市川さんに「文学もいいかもな」と思ってもらえたので、是非この機会に文学にハマってもらいたいです。

 

●市川
名文を浴びるように読めたら文学にハマれると思う。でも、どういうところに綺麗な比喩とか名文とかってあるんだろう?手っ取り早く名文を楽しみたいゾ

 

▲山下
そういう人は、まずは短篇集を読むといいですよ。短編なら疲れる前に読み終われます。オススメの短篇集をいくつか紹介しますね。

 

カフカ短篇集 (岩波文庫)

カフカ短篇集 (岩波文庫)

 

 

カフカは『変身』が有名だけど、この中に収録されている「掟の門」や「流刑地にて」あたりは、『変身』よりも短くて印象的なのでオススメです。「掟の門」はとても寓話的な内容で、「掟の力ってこえぇー!」って思わせられます。あと、この内容が『審判』という別の小説に挿話として出てきてたりするので、面白かったらそっちも読んでみてほしいですね。

「流刑地にて」は、囚人と兵士の掛け合いが面白いです。カフカの小説に出てくる登場人物は、ヒマになると遊び始めることが多いんですが、この話もまさにこのパターンです。処刑されるはずの囚人が、兵士にハンカチをひったくられて取り返そうとじゃれあうシーンとか、不条理を突き抜けてもはや愉快です。学校だと小説をお行儀良く読まされることが多いと思いますが、小説を読む時には「登場人物はけっこうバカなことをやっている」と知ってリラックスして読むと、一気に読みやすくなると思いますよ。

 

勝者に報酬はない・キリマンジャロの雪―ヘミングウェイ全短編〈2〉 (新潮文庫)

勝者に報酬はない・キリマンジャロの雪―ヘミングウェイ全短編〈2〉 (新潮文庫)

 

 

次にヘミングウェイです。ヘミングウェイといえば『老人と海』もアリですが、短篇も良い。個人的にはやっぱり「キリマンジャロの雪」が好きですね。「ハードボイルド」と呼ばれる文体で、出来事がこれ以上ないくらい簡単に書かれています。「おれは自分で自分の才能をぶち壊したのだ」から始まるハリーの独白はとてもナイーブなのに、ジメジメしていない。むしろカラッとしている。「海の変化」も、短いですが好きです。無骨だけど、これぞ男の世界っていう感じがします。

 

トルストイ民話集 人はなんで生きるか 他四篇 (岩波文庫)

トルストイ民話集 人はなんで生きるか 他四篇 (岩波文庫)

 

 

最後にトルストイです。ものものしいタイトルですけど、トルストイの民話集も僕は好きです。ドストエフスキーにしろトルストイにしろ、「最終的にやっぱり愛が大事なんだ!」みたいなことを言ったりして、心が温まります。ロシアといえば重苦しい長編小説っていうイメージがあるかもしれませんが、これは短いし、トルストイの晩年の作なので、実験的で複雑な文章がなくて読みやすいです。まあその反面、「愛があるところに神あり」っていうタイトルが示すように、宗教チックでハマらない人はハマらないかもしれません。ただ、ハマるとどんどんロシア文学の魅力に取り憑かれていきます。

こうやって小説を読む経験を積み重ねていくと、中編や長編も苦労せずに読めるようになると思います。

 

●市川
なるほど、短編から読んでいく習慣をつけていけば、確かに文学が楽しめるようになりそうな気がしてきた。

 

▲山下
少しずつ長い小説が読めるようになると、メチャクチャ忍耐力がつきますよ!あと、読んだ後の達成感も半端ないです。

 

●市川
ん?なんか急に忍耐力とか達成感とかブラック企業みたいなことを言い出したぞ……文学青年って、ドMなのか?やっぱやめようかな……(笑)

 

▲山下
やめちゃダメ!絶対キモチイイから!
さあ読んで!早く!さあ!

 

●市川
末期だこの人!

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二人の話を横で聞いてた堀江くらは「最後に、他のブログの文学オススメまとめ記事を紹介しますね。参考にしてください!」

 

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山下「なんか自分のブログ貼っているヤツがいるんだけど……ステマ乙」