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「スマブラの歴史=みんなでゲームをする歴史」を振り返る

★執筆者紹介★
■堀江くらは(@kuraharu
<アレ★Club>のWeb担当。本職はライター/編集者のゲーマー。

 

1999年に初代『ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ』が発売されてから、長い間親しまれているスマブラシリーズ。最新作『for』も多くのユーザーが楽しんでいる。新キャラの発表も一通り終わり、界隈も落ち着いてきた。ニンテンドーNXが発表され、新作の発表を待っているユーザも多いだろう。

スマブラは「みんなで遊ぶ」ことを重点に置いた対戦ゲームというコンセプトを、初代から今まで貫いている。個人的に「みんなでゲームをする」という遊び方は、スマブラの影響で大きく変化したと思っている。

そこで今回は、スマブラの歴史を振り返りながら、「ゲームで遊ぶことで生まれる繋がり」について考えてみたい。

 

初代スマブラ(NINTENDO64)

ニンテンドウオールスター! 大乱闘 スマッシュブラザーズ

初代スマブラは1999年発売、20代後半~30代前半の方々はプレイしたことのない人の方が少ないのではないだろうか。格ゲー全盛期、どんどんテクニカルになっていき、ハードゲーマー向けなコンテンツになっていく格ゲーのアンチテーゼとして制作された。

ライフ制ではなく場外に吹っ飛んだら負けというシステムや、ステージギミック、難しいコマンドを必要としない操作面など、随所に格ゲーへのアンチテーゼが見て取れる。

 かといって、コアなゲーマー向けのシステムが全くないわけではない。着地キャンセルというテクニックや、ヨッシーのブロッキング等、テクニカルな操作を要求される部分もあった。特に、ブロッキングのシステムは当時の格ゲーのシステム、『ヴァンパイア』のアドガや『ストリートファイターⅢ』のブロッキングなどのシステムに似ており、アンチテーゼでありながら格ゲーユーザーを意識している部分があったのではないだろうか。

 

なんにせよ、初代スマブラは始めは売り上げが伸びなかったが、口コミを通じて話題になり、人気作となった。ニンテンドー64のゲームはほとんどやったことがないという人でも「スマブラだけはやったことがある」という人は多いだろう。その理由は、64は持っていなくても友人宅に行けば皆で遊べるからで、「スマブラやろうぜ!!」の掛け声で友人宅に押しかけ、母親に3人分の菓子を要求する蛮族みたいなことをやる少年達を生み出した。「毎日ハロウィンかよ……」と愚痴をこぼした母親がいるとかいないとか。

まぁ、そんな話はどうでもいいとして、とにかくこのゲームが「友達の家に行って4人で一緒にゲームする」という64が提供した遊びの形を多くの子供たちに普及させたことは間違いない(注1)

 

このゲームは長く愛されるゲームになった。大学の部室には(Wii登場後にもかかわらず)64が置かれ、初代スマブラをプレイする大学生の姿があった。また、ガチゲーマー層にもシビアなシステムが受け、現在でも「ネトスマ」という形で愛されている。

 

このゲームの面白いところは、ガチ勢とライト層でゲームの評価が違うところだ。ライト層にとっては面白いパーティー系対戦ゲーム、ガチ勢にとっては核の炎に包まれながらバスケする某ゲームのようにシビアなゲームとして、それぞれ高い評価を受けている。

スマブラシリーズを通して、ガチ勢とライト層でゲームの捉え方が違うことは一貫しているが、それが顕著なのは初代なのではないだろうか。

余談だが、ガチ勢とライト層が対戦して、ライト層が最も吐血するスマブラも初代だ。ファルコンの上スマ当たったら即死とか聞いてねぇぞ!!!

 

(注1)
4人で遊ぶゲームの一番人気はスマブラだろうが、他にもマリオカート・マリオパーティ・ゴール出会いなどが人気だった。

 

スマブラDX(ゲームキューブ)

大乱闘スマッシュブラザーズDX

2001年に発売された『DX』。正直、僕の中では影が薄いゲームだ。それもそのはず、国内ではPS2が大人気で、ゲームキューブを持っている人が少なかったのが原因だろう。

それでも、『DX』は面白いゲームなことは間違いない。僕の友人が「キューブはスマブラと、人を殴る武器としての価値しかない」と言っていた。つまりはそういうことなのだ。

 

初代スマブラから進化したパーティー要素。対戦中に写真を撮れる、フィギュアの登場、対戦ルールを好き勝手に変更できる点は、多様な遊び方をしてほしいという思想が見て取れる。なにより、設定で英語切り替えができ(キャラクター名・ボイスも英語化する)、在日外国人でもプレイできるようになっている点には、任天堂の並々ならぬこだわりを見ることができる。

『DX』のキャラグラの顔がやたら濃いのは、若干海外市場を意識した結果なのかもしれないが、多分考えすぎだ。

ちなみに、ルール設定では64人でトーナメントとかいう馬鹿げたことも可能だった。お前64人も友達来たら、母親がキレるぞ! 64人とか2クラス分じゃねぇか。ハロウィンどころか文化祭だよ、これ。

 

パーティー・エンタメ要素も充実していたが、『DX』が最も評価されているのは対戦面。コアユーザーに最も評価されているスマブラだといっても過言ではない。

「絶」というシステムから生み出されるスピーディでシビアな戦況は、コアユーザーの好むもので、『X』登場後も、国際的な大会は『DX』で行われるなんてこともあったほどだ。

ハードゲーマーには愛されたが、一方で「高度なシステムが一般ユーザーとの間に壁を作ってしまったのでは?」 という疑問の声を耳にすることもある。

 

国際的なゲームの大会であるEVOの種目にも選ばれた。この当時に「e-sports」という言葉はまだないが、ゲームで賞金がもらえる世界大会があるということを、このゲームの動画か背水の逆転劇で知った方も多いのではないだろうか。

 

ちなみに、このゲームを意識したのかどうか知らないが、『DX』の発売から2年後に、人気格ゲーシリーズ『ギルティギア』から『GUILTY GEAR ISUKA』が登場する。4人同時対戦ができる格闘ゲームなのだが、コンボは邪魔されるし、振り向き操作なるものが必要などの理由で大ゴケ。後に面白い糞ゲーとして評価されたが、糞ゲーは糞ゲーだ。

とにかく、アンチ格ゲーから始まったスマブラは、格ゲー界からも注目されていたのだろう。

 

 

スマブラX

大乱闘スマッシュブラザーズX

家族でまったり遊べるハードとして登場したWiiの中でも、やっぱり人気だったスマブラシリーズ。2008年に発売された『X』は、『DX』の高度なシステムを反省したのか、シンプルかつ誰でも遊べるゲームになっており、パーティーゲームへの回帰が見て取れる。

 

まず対戦面では前作でもっとも高度なシステム「絶」はあるが無力化し、着地キャンセルをなくした。また、対戦中にキャラが走るとたまに「コケる」というランダム性を入れることで、よりパーティーゲームとして調整された。

対戦面以外でも、ストーリーモードやコンプ要素などが充実している。

『DX』はプレイしていないが初代はプレイしていた人も戻ってきて(これは世代的なもので、初代をプレイしていた人が大学生になり時間が生まれた。同様の現象がポケモンの『HG/SS』でも起こっている)初代スマブラの197万本よりも多い242万本の売り上げを達成した(注2)。一方で、ライトユーザー向けの調整はコアユーザーには受けず、ガチ勢は初代か『DX』をやり続けるという結果も生み出した(コアユーザーは突然コケる自キャラを見て、ドリフのように自分がずっこけるなんてできないのだ。彼らは勢いよくコントローラーを投げる)。

 

また、本作ではシリーズ初となるオンライン対戦が搭載された……のだが、そこには多くの問題があった。

ガチ勢とライト層を分けなかったがために、両者のミスマッチが起こってしまう。お気軽リンチ・馴れ合いと呼ばれる現象が起きてしまうなど、対戦できる環境ではなかった。世紀末ゲーと呼ばれるゲームが多い中、本当の意味でルール無用の世紀末を実現したのがお気軽リンチだ。世紀末にもルールが必要だと多くのユーザーが思い知った。

 

以上のように、パーティーゲーとしての出来はいいが、ガチ対戦としては微妙という、スマブラの「アンチテーゼ」が最も色濃く出た作品が『X』なのかもしれない。

 

(注2)
「それでも、友達の家に遊びに行った初代スマブラの方が、プレイした人数が多いのではないか? 」というのが、僕の見解だ。

 

for Wii U/for 3DS

大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U大乱闘 スマッシュ ブラザーズ for ニンテンドー 3DS

 

 

2014年、Wii Uとニンテンドー3DSで発売されたいわゆる『for』は、3DS版が253万本、Wii U版が73万本と売り上げ的に成功を収めた。据え置きハードが下火の時代に、小型ゲーム機で出したのことが成功の理由だろう。

さて、本作では前作にあった問題を上手いこと解消している。

前作のストーリーモードはYouTubeなどにアップされるのを嫌って撤廃。それでもキャラカスタムなどのパーティー要素は充実している。

ゲームスピードは遅いがコケなくなり、理不尽な点を解消。また、崖つかまりが一人しかできないという仕様をなくしたことで、ライトユーザーの感じる理不尽さをなくし、コアな層には読みあい・駆け引きの要素を増やすという仕様変更が行われた。

もっとも変化したのはオンライン対戦で、ガチ部屋とエンジョイ部屋を分けることにより、対戦できる環境を整備した。また、ガチ部屋では全てのステージが「終点化(ステージギミックがなくなる)」することで、全てのステージのグラフィックを、全てのユーザーが楽しめるようになった。

 

余談だが、前作『X』でパーティーゲーの中にもガチ勢がいる、しっかり対戦環境を整える必要がある、ということに気づいた任天堂は、『スプラトゥーン』などにもこの反省を活かしたのではないだろうか。

 

本題に戻ろう。ゲームの地位が向上し、e-sportsやプロゲーマーといった言葉も認知されてきた昨今、スマブラでも対戦動画や実況プレイが増加した。また、リアルの場でも大会が増え、中には実況や解説を付けて動画化したものもある。この流れで、ガチ勢は大会に出て、ライト層は動画を見るという一種の住み分けみたいなものが行われた。ライト層の中にはゲームをプレイしない所謂「動画勢」も含まれるが、広い意味で「皆がゲームを楽しめるようになった」ことは間違いないだろう。

 

一方、「スマブラの初期コンセプトはアンチ格ゲーだったが、それが揺らいでいるのでは? 」という声がある。公式での大会開催や、コマンド入力によって強い技が出せるリュウの登場がその理由だ。

これらの点は確かに「アンチ格ゲー」から逸れるものかもしれないが、個人的には「ゲームの楽しみ方の幅が広がるからいいのでは? 」と思っている。それに大会動画などはユーザーを増やすし、格ゲーユーザーがこれから『for』を始めるなら、思い入れのあるキャラがいない限り、リュウを使うだろう。そういう参入のきっかけ・参入コストを下げているというところを評価したい。

 

また、格ゲーのDLでのキャラ販売・アップデートでのバランス調整という要素を取り入れたことにも注目したい。

キャラのDL販売は賛否両論あるが、他のゲームのキャラクターを出す(交渉に時間がかかるから発売日に出せるとは限らない)、ユーザーの意見を取り入れてキャラを作る(ベヨネッタなど)ことができるという良い面がある。

キャラの調整を定期的に入れることで強すぎるキャラを減らし、長く楽しむことができるようになった。「格ゲーのアンチテーゼ」と言いながら、格ゲーの良い部分を吸収しているのは流石だと思う。

 

以上のように、『for』は、本当の意味で「誰でも楽しめるゲーム」を目指し、過去作の反省点を上手く生かした集大成的な作品といえるだろう。

また、すれちがい機能、miiの投入など、より「繋がり」を意識した作品でもある。この点に関しては、次の総評で詳しく語ろう。

 

総評

「皆でわいわい対戦する」を提供し続けたスマブラの意義は大きい。初代の時点で、4人同時にプレイするという64の提供した新しいゲームの遊び方を広げ、『for』では4人の枠を超えた8人対戦・場所を超えたネット対戦どころか、実況動画、大会などの多くの人を巻き込んだ遊び方を提供している。

思えば、スマブラシリーズは初代から雑誌やネットで情報を出し、ユーザーと繋がろうとしてきた。初代スマブラの「スマブラ拳!」などが顕著だろう。友達同士で遊ぶことを重視し、開発側とプレイヤーも繋がろうとしている点から「ゲームは一人で遊ぶものではない」という任天堂の思想を感じることができる。

 

一方で、スマブラシリーズはガチ勢とライト層の間にある壁を明確に表している。

先にあげた国際的なゲーム大会であるEVO2016では、『for』と『DX』が両方競技対象になっていた。なぜ『DX』が未だに人気なのだろうか?

やはり、コアな対戦ゲーム好きが求めるのはスピード感なのだ。『DX』はシリーズで最もスピード感があるゲームだし、誰でも遊べる『for』にはスピード感はない。だが、スピード感があるゲームは操作性が難しく、ライト層ではとっつき辛い。これが格闘ゲームを廃れさせた、ハードゲーマーとライトゲーマーの間にある壁の正体なのではないだろうか。

この壁を取り払うために、ゲーム業界も必死だ。最近の格闘ゲームでは、ボタン1つで必殺技が出て、連打するとコンボが出せるように設定できる(『ギルティギア』シリーズ最新作、『GGXrd』など)。スピード感があるゲームは、操作面さえ解決すれば爽快感溢れる良ゲーになる。ゲーム業界には今後も頑張っていただきたい。

 

いずれにせよ、スマブラシリーズは「ゲームは一人で遊ぶものではない」というコンセプトを重視してきたゲームだ。それはスマブラが、ゲームが人と人を繋げるコンテンツになるということを、明確に示してくれたソフトだということでもある。実際、多くのゲーマーがスマブラを通して「繋がった」ことは上に書いた通りだ。そして、その繋がりの範囲はネットを通じて今もどんどん拡がっている。

 

ポケモン最新作のPVを見る限り、任天堂はもっとゲームで人を繋げたい、と考えているようだ。僕もそれには大賛成だし、任天堂を応援したい。ゲームは人を繋げ、繋がりがコミュニティを産み、ゲームの外でもそのコミュニティが活きてくると僕は信じている。

人気タイトルということもあり、次世代機でもスマブラの新作が出るのはほぼ間違いないだろう。次のスマブラがどうなるか、今から楽しみだ。

 

僕たちのゲーム史 (星海社新書)

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